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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

大阪ガスCNRH&大阪・関西万博ガスパビリオン見学レポート【関西・中部メンバー視察編】
都市ガス業界のカーボンニュートラル実現に向けた最先端技術

都市ガス業界では2050年までのカーボンニュートラル(以下CN)化を目指し、さまざまな技術開発を進めています。2024年9月27日、ETT関西・中部メンバーは、大阪ガス株式会社を中心とするDaigasグループのCN技術研究開発拠点「カーボンニュートラルリサーチハブ(以下CNRH*)」(大阪市此花区・酉島地区)と、「2025年日本国際博覧会(以下大阪・関西万博)」(同区・夢洲)のガスパビリオンを見学し、未来のエネルギーについて理解を深めました。
Carbon Neutral Research Hub

水素+CO2=都市ガス原料「e-メタン」を合成するメタネーション技術

JR新大阪駅からバスで約40分、車内で日本ガス協会の方から本日の見学概要を伺いながら、大阪港ベイエリアにあるCNRHに着きました。CNRHはDaigasグループ内の技術連携と大阪ガスの技術進化を目的に、2021年10月、「2050年CN実現に向けた研究開発拠点」として開設され、都市ガス、水素・アンモニア、電気の3つのエネルギーを〝つくる〟技術、うまく〝つかう〟技術の研究開発に取り組んでいます。CNRHがある酉島地区は、大阪ガスの研究開発発祥の地で、約60年の歴史を持つ建物があるほか、新しい建物も建設中でした。メンバーは2班に分かれて広大な敷地に分散する実験場に入り、映像や実験装置を見ながら運営スタッフやツアーガイドの方から説明を伺いました。

CN化のキーテクノロジー「メタネーション」
「メタネーション」とは水素(H2)と二酸化炭素(CO2)から都市ガスの主成分であるメタン(CH4)を合成する技術で、メタネーションによって製造された合成メタンを「e-メタン」と言います。回収したCO2を用いて製造したe-メタンを燃焼すると、回収したCO2と同量のCO2しか排出しないので、大気中のCO2は増えないのがメリットです。e-メタンは政府のグリーン成長戦略に選定され、日本ガス協会も普及に向けて「カーボンニュートラルチャレンジ2050アクションプラン」を策定し、2050年にはガス全体に占めるe-メタンの比率を90%にするとともに、複数の手段を活用してガスのCN化の実現を目指しています。


■都市ガスのカーボンニュートラル化に向けた取り組み

メンバーはDaigasグループがe-メタン導入を目指して取り組んでいる3つの製造技術開発について説明を伺った後、部屋を移動しながら実験装置や紹介動画を見てさらに詳しく理解を深めていきました。

①サバティエメタネーション【従来技術】大規模実証→2030年実用化(1%導入)
触媒を使って水素とCO2からe-メタンをつくる技術。すでに確立されているが実用化のためには大型化が必要で、2030年にe-メタンを都市ガスに1%混ぜて供給予定。
■意義:早期の大規模化・社会実装
■実証:NEDO*事業により、2025年度からINPEX長岡鉱場内(新潟県長岡市)で回収したCO2を用いてe-メタン製造の実証実験を実施予定。大阪ガスは濃度の高い排ガスを回収して不要な硫黄分を除去する技術も持っている。
■特徴:世界最大規模400㎥/h(一般家庭用1万戸)相当のe-メタン製造予定。さらに実証スケール(1万㎥/h)、商用スケール(6万㎥/h)も検討している。
■見学:【現在開発中「SOEC電解装置」の超小型デモ装置】SOECパネルが1枚内蔵され、電圧をかけた状態で水蒸気(H2O)とCO2を流すと電気分解され、水素(H2)と一酸化酸素(CO)が生成される。その後、管を通ってメタン合成反応器に移動し、内蔵されたメタネーション触媒によって水素と一酸化酸素が結び付き、e-メタンが製造される。装置の隣には、基盤を金属にして衝撃性を高めたSOECパネルや、水蒸気発生器も設置されていた。【2024年4月にスケールアップした「ラボスケール」】SOECパネルが多数内蔵された電解装置と、触媒を搭載したガス生成装置から構成され、デモ装置よりも大きな炎をつくり出せることを映像で確認した。【1/400スケールの実験装置】運転に向けた各種データを収集。【e-メタンのガスと、化石燃料(天然ガス)からの都市ガスとの燃焼比較】e-メタンの95%、都市ガスの約9割がメタンで組成がほぼ同じであり、炎の色や燃え方に差がないことを目視で確認できた。
*国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

②バイオメタネーション【地産地消】地域の廃棄物をガスに代えて地域で使う
下水汚泥や、溶解したバイオプラスチック(以下バイオプラ)*などの廃棄物を発酵させたバイオガス(メタン:6割、CO2:4割)のCO2と水素をメタン菌の力でe-メタンに合成する技術。発酵槽など既存設備を利用できるのでコスト低減がメリット。一方、試算では大阪市下水処理場で実用化するとメタンガスを今の約5倍に増やせるが、大阪ガスの現在の供給量60億〜70億㎥のうち2億㎥しか賄えないので大規模化には向かない。
■意義:地産地消のエネルギー製造・利用
■実証:【大阪市下水処理場】小型のバイオメタネーション装置を設置済みで、2030年までの商用化を目指している。現在はメタン発酵装置でバイオガスをつくり、その中のメタンでガス発電により4万2千世帯相当の電力(都市ガスとして供給すると20万世帯相当)をつくり、バイオガスに含まれるCO2は捨てている。今後は発酵装置に水素を追加投入してCO2と反応させ、e-メタンをつくる研究を行う。【大阪・関西万博】舞洲(まいしま)ごみ処理場に建設した実証設備を解体して万博会場へ。会場内に出た生ごみを発酵させて製造したバイオガスと水素からe-メタンを合成し、さらに濃度を上げるためサバティエメタネーションを行い、会場内の厨房や熱供給設備へ供給予定。
■特徴:①メタン細菌によりメタンを合成する。②生ごみ・下水のバイオガスを利用する。
■見学:【バイオメタネーション試験装置】大阪市下水処理場のバイオガス生成を再現し、水素を吹き込んでバイオメタネーションを行い、現状と比較。水素を入れた分だけCO2をメタン化できることがわかる。【バイオプラ分解装置】バイオプラコップを粉砕、加熱処理して乳酸(バイオガスの原料)にする。
*微生物によって生分解される「生分解性プラスチック」および、バイオマス(生物由来の再生可能な有機資源)を原料に製造される「バイオマスプラスチック」の総称。

③SOEC*メタネーション【革新技術】研究開発中の超高効率・次世代型
SOEC(固体酸化物型燃料電池)と組み合わせることで、水とCO2から直接メタンを製造できるとともに、メタン合成時の廃熱を利用できるため高いエネルギー変換効率(85〜90%)が期待でき、コスト削減になる。現時点は研究段階で、2030年の実証事業につなげることが課題。
■意義:高効率化によるエネルギーコスト削減
■開発:グリーンイノベーション基金**による研究開発中で、2030年までの技術確立、2040年代までの実用化を目指す。現段階はラボスケール(一般家庭2戸分のガス生成)が完了。2025〜2027年には200戸相当(10㎥/h)のベンチスケール、2028〜2030年には1万戸相当(400㎥/h)のパイロットスケールへステップアップし、実証に向けた研究開発を進めていく。
■特徴:①エネルギー変換効率をサバティエの1.5倍に向上できる。②水とCO2から直接メタンを合成する。
*Solid Oxide Fuel Cell(固体酸化物型燃料電池)
**2050年CNの実現に向けてNEDOに創設された約2兆円の基金。


■社会実装スケジュール

以上の3つのメタネーション技術はそれぞれ特徴が異なるので、今後の技術進展に合わせて活用方法を検討していくとのことです。メタネーションの大きなメリットは、これまでと同じガス供給インフラ・利用設備を活用できることです。2030年以降はガス全体に占めるe-メタンの比率を1%から徐々に上げ、2050年には90%を目指していますが、私たちは都市ガスを使っているうちに気がつくとCNの社会に変わっていることになります。将来は国内および海外でもe-メタンの製造ができるよう技術確立を進めていくそうです。


■水素細菌による高エネルギーの生産の循環図

メンバーからの質疑応答
Q.メタネーションは世界中で取り組まれているのか?
A.
日本はトップの一員だが、国や地域によって状況は異なり、これから天然ガスを使う所もある。
Q.
e-メタンになるとガス料金は?
A.
2050年CNには現状と同等に、と政府から要望されている。既存のLNGタンカーやタンクなどが使えるので、再エネの電気代が安い海外でe-メタンをつくり、液化してタンカーで輸入する方法も検討できる。
Q.バイオメタネーションの原料に使うバイオプラは普及しているのか?
A.
普及率はまだ数%だが、国が2030年までに約200万トンの導入を目指している。

ゼロエネルギーで涼しさを届ける放射冷却素材SPACECOOL

次に、大阪ガスが技術開発し、4年前から販売している放射冷却素材SPACECOOL(スペースクール)について説明を受けました。SPACECOOLは①太陽光など外部からの入熱を「反射」する、②対象物などにたまった熱を赤外線として外部に「放射」する、この2つの異なる機能により、高効率でゼロエネルギーによる冷却を実現します。特徴は、暑い所(地表の平均温度:15℃)から冷たい所(宇宙空間の温度:-270℃)に熱が移動する「放射冷却現象」を活用していることで、フィルム、マグネット、キャンバスなど多種多様な商品が開発され、屋根や空調室外機などにも使用されています。大阪・関西万博のガスパビリオンの外幕にも採用されていることから、内装工事の方も涼しく作業できているとのことでした。


■スペースクールの放射冷却技術

外に出ると、SPACECOOLの涼しさを体感できるよう、通常の素材のテントと、SPACECOOLのテントが並んでいました。通常のテントの中に入ると温度計は39.5℃を指し、風が抜けないので非常に暑さを感じました。隣のSPACECOOLのテントに入ると温度計は33℃で通常のテントより6℃以上も低く、「全然違う!涼しい」と口々に声が上がりました。

「化けろ、未来!」大阪・関西万博のガスパビリオンへ

大阪・万博会場へ向かうバスの車中で、日本ガス協会の方から概要説明を受けました。日本ガス協会は「化けろ、未来!」をコンセプトに、未来を担う小学校高学年が楽しめる「おばけワンダーランド」という名称でガスパビリオンを出展します。2050年CNの実現に向け、一人ひとりが意識や行動を変える(化ける)ことで、社会や世界が変わっていく(化ける)意味が込められています。道中の車窓からは、万博用ではなく一般用のバイオメタネーションの原料となるごみ処理場が見えました。橋を渡って万博会場の夢洲(ゆめしま)に入ると全体像が右手に見え、会場に近づくにつれトラックやトレーラーが数多く停められており、工事の真っ最中であることが感じられました。

ガスパビリオンの施行を担当された奥村組の事務所にて、設計を担当された日建設計の方から外観の説明を受けました。大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げ、持続可能な社会の実現に向けてさまざまな技術・アイデアを試行する「未来社会の実験場」を目指し、2025年4月13日〜10月13日の半年間にわたり開催されます。シンボルは木造の大屋根リング(円周2km、幅30m、高さ内側12m〜外側20m)で、内側にテーマ館や海外パビリオン、外側に民間パビリオンが配置されます。ガスパビリオンは外側の西に位置し、敷地面積約2126㎡、最大高さ18mの山脈のような外観をSPACECOOLのシルバー幕で覆い、空や周りの風景が映り込むことで建物の表情が「化ける」デザインになっています。夜には青くライトアップし、「CNな炎」も演出するそうです。

また、建物は3R*で万博後も「化ける」予定です。規格品の「レンタル鋼材」を使用し、使用後も再利用することでCO2を削減するほか、会場は埋立地で軟弱地盤のため通常は大きい基礎をつくる必要があるところ、コンクリート量と掘削量を抑えた「浮き基礎工法」を採用しています。さらに夏期の開催になるので、放射冷却素材SPACECOOLと、敷地内で提供される冷水を活用した床下からの空調により来場者の居住領域だけを効率的に冷やすことで、空調負荷を約60%低減します。また、パビリオン前面の来場者待機スペース(屋外)では、SPACECOOLの廃材や鉄骨スラグを利用して日除けをつくるなど、「徹底して材料を使い切り、CO2削減と印象的なパビリオンを目指したい」というお話でした。
*減らす(Reduce)、再利用(Reuse)、再生利用(Recycle)

次に、奥村組の方からガスパビリオンの建築工事について説明を受けました。2023年11月15日に着工し、鉄骨工事を終えた順に、ロール状にしたSPACECOOLを鉄骨の頂点から垂れさせる外装幕工事を2024年4月中に完了しました。9月27日現在はパビリオン内部で展示工事の最終仕上げ中で、9月末で9割の進捗状況、10月31日に引き渡し予定で順調よく進んでいるとのことです。工事の様子を追ったコマ撮り写真とドローンの映像も見せていただきました。

バスに乗って少し歩くと、巨大な木造リングの前に、CNRHで見たテントの数十倍大きい、光り輝くSPACECOOLに覆われたガスパビリオンに到着しました。中に入ると床にはブルーシートが敷かれ、各所で工事が行われています。ガスパビリオンは4つの部屋に分かれ、およそ40人を1組として見学できるそうです。また万博会場では、先程紹介されたバイオメタネーション+サバティエメタネーションの実証も行われる予定です。今回の見学会は盛り沢山な内容でしたが、CNに向けた未来のエネルギーをさまざまな角度から体感でき、たいへん学びの多い一日となりました。


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