第8回オンライン勉強会では、地球温暖化対策としての脱炭素化のためのみならず、今、世界で求められている多様な必要性により、積極的に取り組む傾向にある原子力の新しい技術、小型モジュール炉(SMR)について、開発状況や課題などを、黒田雄二氏(一般社団法人海外電力調査会調査第一部上席研究員)にお話しいただきました。
小型モジュール炉SMR(Small Modular Reactor)は、原子力の革新炉の一つです。革新炉とは安全性、廃棄物、エネルギー効率、核不拡散性等の観点から優れた技術を取り入れた先進的な原子炉を定義しており、おおむね30万kW超を大型、それ以下を小型としています。タイプとしては従来の軽水炉の新型と、新しいタイプの第4世代炉などがあり、本日お話しするSMRの範囲は「電気出力30万kW以下の革新炉」とします。しかし国や機関により定義は様々で、アメリカではSMRをAR(Advanced Reactor)という言葉で表現し、イギリスではSMRとAMR(Advanced Modular Reactor)と表現しています。
経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)によると、世界のSMRの規模は2035年までに約2,000万kWに達する可能性があると言われており、その特長として①統合化された設計、②固有の安全性、③炉心の放射性核種インベントリ(在庫量)の削減、④モジュール(連結)化によるファイナンス・リスクの低減が挙げられています。SMRが期待されている理由は、エネルギーシステムの脱炭素化や天候により左右される再エネの導入補完、そして需要の小さい国や地域への導入、遠隔地、局地事業での利用などがあります。
安全性については、原子炉で体積に比例して発生する熱は表面積に比例して逃げていくため、小型化により逃げやすくなることがメリットです。福島第一原子力発電所の事故では原子炉はシャットダウンしたので炉内の新たな核分裂は起きませんでしたが、崩壊熱を取り出せず溶融してしまいました。崩壊熱に対しては通常、強制的に熱を取り出す機械や電気が必要になります。ところがSMRだとそのまま放っておいても空気の冷却する力で自然に冷える効果があり、炉心溶融が起こりにくくなります。また原子炉が小さいので放射能の面でも安全性が高まると言えます。
現在、世界で建設もしくは計画されている原子力発電は、ロシア、中国製が6割を占めており、輸出も進んでいます。これに対し、先進国は1990年代までは盛んに作っていましたが、今はほとんど作っておらず、その結果、原子力に関わる技術力やサプライチェーンが衰退し技術の消滅に対して強い危機感があります。また原子力は軍事にもつながる国家安全保障上の重要な分野であるため、先進国はSMR技術で世界のリーダーシップを奪還しようとしています。
国際原子力機関(IAEA)の2020年のレポートによると、今、世界で70種類以上の設計(炉型)と開発が行われており、国別ではロシアとアメリカが多く、タイプ別では最も一般的な軽水炉が多くなっています。運転中のものが第2世代、建設中のものが第3世代で、さらにその先の開発をしているものが第4世代炉になります。この中には高温ガス炉(HTGR)、高速炉(FR)、溶融塩炉(MSR)があり、加えて出力1万kW以下のマイクロ炉もあります。
第4世代炉について原子炉のタイプ別に見てみると、現在の加圧水型軽水炉(PWR)が150気圧なのに比べて、3つとも圧力はそれより低く、逆に温度は、PWRが300℃ですが、HTGRでは900℃とかなり高くなっています。また特徴的なのは燃料で、TRISOはウラン酸化物を黒鉛やセラミックで被覆した粒型燃料で溶融しない特徴があります。FRの燃料は使用済み燃料のリサイクルから生まれたMOX(混合酸化化合物)燃料です。またMSRでは冷却材としても使われる溶融塩に燃料を混ぜて使用します。
世界で70種類以上ある中で代表的なSMRのリストが下の通りです。この中で連結して使えるモジュール性のあるものはそれほど多くありません。また燃料のHALEUは、軽水炉で使われているのはウラン濃縮度5%以下ですが、5%以上20%まで高め効率が良くなっています。現在運転中のSMRは表で●をつけた、ロシアが開発した1基のみで、それに続くのが中国で建設中の3基と考えられています。アメリカ、イギリス、カナダはプロジェクト数はあるものの、完成時期は2020年代後半とされており、30年代でようやく実用化が見込まれています。その一方、ロシアと中国は大型炉のみならず小型炉でも先行し、また導入を検討している東欧、中東、アジア地域では、主に米英のSMRを導入する予定ですが、ロシア、中国製を導入する国々の動きも見逃せません。
アメリカではAR開発に向けて、2018年にエネルギー省(DOE)に関するNEICA法、原子力規制委員会(NRC)に関するNEIMA法を制定しています。DOEは20年から3つのカテゴリーでARへの資金援助を開始しており、7年以内に実証できるものとして2つのプログラムが選定され、32億ドルの資金援助が決まっています。これに次いで14年以内に実証できるもの、さらに30年代半ばには実証できるものも選び、資金援助をしていく予定です。しかしアメリカの開発には課題があり、ARの多くは燃料にHALEUの使用を想定していますが、アメリカには現在、商業生産施設はなく、生産できるのは唯一ロシアです。そのためロシアから輸入を想定していたところ、ウクライナ侵攻があり断念しました。DOEはアメリカ国内でHALEUを生産する会社に新たに実証プログラムの契約をしたものの、いまだ実現は不透明な状況です。また注目されているのが、石炭火力を原子力に置き換えるC2N(Coal to Nuclear)です。DOEによると現存の石炭火力サイトの80%がARの候補地としての条件を満し、インフラの再利用により建設費の15~35%削減可能なメリットがあり、その上、AR新設により雇用や地域経済に寄与すると言われています。今年8月に決まったインフレ抑制法でも支援しており、事業者の動きも活発化しています。
イギリスでは、北海油田の枯渇が見え始めた2008年に原子力推進に方向転換しており、現在、大型炉の新設、SMR、AMRの開発という3本柱で進めています。イギリスでは軽水炉タイプのSMRをSMRと呼び、それ以外の第4世代はAMRと呼んでいます。13年以降、国はSMR、AMR共に支援しており、20年には3.85億ポンドの基金を設立、資金支援されている一つはロールスロイス製で、1950年代から原子力潜水艦プログラムの原子炉の設計や製造を行ってきた経験があります。そのため許認可の可能性も高く、29年の運転開始を目指し、50年までに国内で最大16基の導入を予定しています。21年にはAMRでHTGRを選択していますが、なぜHTGRが選択されたかというと、イギリスは世界の中で唯一ガス炉を運転している国で、建設・運転の実績があるためです。22年にはエネルギー安全保障戦略を決め原子力の比率を現在の16%から25%まで上げていくとしています。
カナダではSMRの3つのプロジェクト —— 1. 小型でも系統電力として使うSMRの展開、2. 使用済燃料の再利用による第4世代炉の開発、3. 系統未接続地域への電力供給 —— が積極的に進められています。1. については、28年までに運転開始し、その後は同型で4基作られる可能性があります。2. については、カナダは天然ウランを利用しており、使用済み燃料から取り出される質の良いプルトニウムを効率的に再利用する第4世代原子炉は30年の運転開始が考えられています。また3. は遠隔地で系統電力のない鉱山における採掘に必要な電力を得るためにマイクロ炉の開発が考えられています。プロジェクト1から、SMRの商業化は西側諸国の中で最も早くなると考えられます。
マイクロ炉について説明すると、電気出力約1万kW以下の最もコンパクトな原子炉で、特徴として災害時の復旧支援もありますが、国防上の重要拠点、宇宙探査や月・火星の電源として期待されています。アメリカ国防総省は2019年、可搬型マイクロ炉を開発する「プロジェクト・ペレ」を開始し5年以内の実証を目指してコンテナや空軍輸送機に積めるサイズの原子炉の開発が進められています。
ロシアでは、世界初の浮体式原子力発電所(FNPP)が2020年に運転開始されました。09年からサンクト・ペテルブルグの造船所で船体を建設し始め、18年の完成後スカンジナビア半島を曳航して周り北極海に面するムルマンスク港に運び入れ、ここで燃料を入れて臨界に達し原子炉の稼働を確認してから、極東シベリアのペベクまで再び曳航したのです。現在、民間で原子力船を動かしているのはロシアだけで、このFNPPの原子炉は、原子力砕氷船の小型原子炉をベースに開発されたものです。ロシアは世界で最も多くの大型原子炉を海外に輸出していますが、既存のタイプを建設合理化した新型が間もなく実証化・運転開始になり、他にもFR、次世代FNPP、陸上型のSMRなど多様な革新炉の開発を進めています。
中国のSMR開発状況としては、2006年にHTRの実証炉プロジェクトが始まり、12年から建設着工、21年に臨界に達して同年には送電開始しています。その後中東への輸出も視野に入れています。また他にも10万kW級の軽水炉が21年から開発され、15年頃からはFNPPも開発されています。ただしFNPPについては、石油資源の採掘など国際政治問題が絡む地域への配備の可能性があるためか、最近の動向は不明です。
SMRの課題については、OECD/NEAが昨年指摘しているように、SMRはこれまで経験のない技術なので国際条約や安全規制における枠組みの整備が必要です。例えば、FNPPやマイクロ炉が国境を超える場合、環境評価、原子力損害賠償責任をどうするかなど、議論が必要だとしています。また世界的展開、商業化に向けて、経験が限られた新技術の実現性が不確実であり、経済的裏付けが必要なこと、サプライチェーンの構築やHALEUの定常的な供給、規制当局による円滑な安全性の審査や承認、そしてSMR利用への社会的受容性の獲得も必要だとしています。課題解決には、販売するメーカーと規制当局による意見交換や国際的規制基準、また関係国の規制機関同士の情報交換と相互協力なども必要としています。
経済性の問題では、従来の大型炉開発はスケールメリットを求めたからであり、それに対してSMRはその逆のデメリットがあり、小型化による建設コスト削減の可能性はあるものの、一部には割高になるとの見方もあります。先進国では電力会社の関与が不十分な現況で、先行するロシア、中国では電力会社が既に主体として関与していますが、国家的ニーズ主導型のため民間用としての経済性はまだ不明です。
日本では資源エネルギー庁の原子力小委員会が今年から検討し始めていますが、優先課題として第一に挙げているのは、既設炉の早期稼働です。2番目が運転期間の延長(40年⇒60年)で、次世代革新炉の開発・建設はその次となっています。日本での次世代革新炉の定義としては、下の表のようになっており、順番として革新軽水炉を2030年代中頃に運転開始、その次に小型軽水炉(SMR)、そのあとでHTGR、FR、MSRを挙げています。今年8月のGX実行会議で、再稼働済み10基に加え設置許可済みの再稼働に向けて国が前面に立って対応し、運転期間の延長、次世代革新炉の開発・建設などを政府がようやく提示するに至りましたが、世界よりまだ周回遅れと言えます。
Q:マイクロ炉は移動可能なので災害時や宇宙での利用も期待できるが、開発を進めている国は核保有国で軍事利用をしないか心配だ。マイクロ炉の課題についてどのように捉えているか。
A:今の原子力発電所は地面に設置されているので他国との関係や立地地域での問題はあるとしても、一応の枠組みはある。これに対し、移動できるマイクロ炉の場合は条約や法律の体系を作り直さなければならないので、安易に利用できない。
Q:日本のSMRの開発状況はどの程度進んでいるのか。またモジュール炉としてのSMRの経済性とはどういう意味を持つのか。
A:日本の開発状況は、メーカーとしての設計・開発レベルは世界と並んでいると思うが、誰が、どこに作るかというレベルにまでは全く至っていない。ただし一部の企業がアメリカのプロジェクトに参画しているものもあり、日本の技術を使う状況は水面下では動いている。またモジュールの経済性は単に安いか高いかだけでなく、少しずつ作っていくことにより、様子を見ながら段階的に増やせることのメリットは大いにある。また、最初に作った原子炉は高くなるが、いくつも作れば少しずつ安くなっていくのでこの面からのメリットもある。
Q:ロシアはなぜ世界初のSMRを船舶の形で行ったのか。もう一つの疑問は、日本は大型原子炉の延長を重視せず、より安全な小型化に向かうべきではないのか。
A:ロシアにとってシベリア地域の電源開発は住民の生活のためだけでなく鉱山の電源としても重要で、大きな課題だった。シベリアには既存の小さな原子力発電所もあるが、遠隔地であるため建設に苦労すると考えられる。このため、移動しやすい船舶型でSMRを装備し現地まで簡便に運ぶことにした。2つ目の答えは、安全性の点では小さい方が確率的には良いが、日本の場合、国の隅々まで送電線がつながって電力が行き渡っているから、必要なのは電力量だ。大型炉が廃炉になると、SMRだけでは不足する。それに加えて現在、日本の電力は天然ガスに依存しているので、早く再稼働すべきであり、新しい炉としても大型は必要だと思う。
一般社団法人海外電力調査会調査第一部上席研究員/日本原子力学会フェロー
1977年、大阪大学大学院(原子力工学専攻)修士課程卒業。同年日本原子力発電株式会社入社。2007年、同社研究開発室長。09年、リサイクル燃料貯蔵株式会社常務取締役。11年より一般社団法人海外電力調査会上席研究員。