「エネルギーの街」柏崎刈羽から、これからのエネルギーの在り方について考えるセミナーでは、エネルギー科学の基礎から関連する科学史、原子力の一つの利用法としての高温ガス炉、またカーボンニュートラルの視点から今後より重要になってくる水素の生成についてなど、稲垣嘉之氏(元 日本原子力研究開発機構研究主席)による幅広いお話を伺い、フリーディスカッションが行われました。

原子力を利用した水素製造の話をする前に、まずエネルギーの大量消費が始まった産業革命の時代に遡って話を始めます。18世紀半ばにイギリスで起こった産業革命では、それ以前の手工業から機械工業への技術革新から大量生産が始まり、資本主義も発展しました。その原動力となったのが蒸気機関です。蒸気機関とは、水を沸騰させて蒸気にすると約1,700倍に体積が膨張する力を利用してピストン運動や回転運動などの仕事をさせる装置です。世界初の実用的な蒸気機関は1711年にイギリスで考案され、ただしピストン運動のみだったため汎用性に欠けるものでした。その後、熱効率を大幅に向上させ、さらにピストン運動を回転運動に変換する改良をしたおかげで、蒸気機関は紡績、製粉、研磨などにまで用途が広がりました。
蒸気機関の技術はさらに蒸気機関車、蒸気船へと発展し、1802年、世界初の蒸気機関車の試運転に成功しましたが、鋳鉄製のレール上を走ると機関車の重量に耐えられず実用化には至りませんでした。10年後に実用蒸気機関車の運転に成功し、イギリス国内で38台もの車両を引いて運行できました。また1807年には、アメリカで水車型の外輪を用いた実用蒸気船が建造され、東海岸のハドソン川で運行し、その40数年後には、ペリーを乗せた蒸気船が太平洋を渡り日本へやって来るのです。
蒸気機関の一つに、回転運動を利用した蒸気タービンがあります。ボイラーで製造した蒸気を吹き付けて羽根車(タービン)を回転させ、その回転力で発電機を動かすシステムで、現在の大規模発電システムの基礎となるのは、この蒸気タービン、もしくは高温のガスを利用したガスタービンです。17世紀には原型が考案されていましたが実用化はされず、1882年にスウェーデンでタービンの試作が行われ、程なくイギリスで発電用蒸気タービンが実用化されました。1904年には日本でも輸入した蒸気タービン発電設備を使って東京で発電が開始しており、4年後には三菱重工長崎造船所で国産第1号機が製造されました。蒸気機関の燃料として、産業革命時は石炭、その後は石油、天然ガス、原子力が使われてきましたが、燃料が代わっても製造した水蒸気の使い道は同じであり、原子炉では、お湯を沸かすボイラーの代わりにウランを燃料として熱エネルギーを取り出しています。
原子力の話をするためには放射線の基本を押さえておく必要があります。放射線は放射性物質から放出される粒子(粒子線)と電磁波で、主な放射線は、粒子線の①アルファ線(α線)、②ベータ線(β線)、③中性子線、そして電磁波の④ガンマ線(γ線)とエックス線(X線)です。①アルファ線は原子核から放出される粒子(陽子2個・中性子2個からなるヘリウムの原子核)で、②ベータ線は原子核から放出される電子です。また、③中性子線は原子核を構成する粒子の一つで、中性子線とは中性子の流れをいいます。④のガンマ線は不安定な状態にある原子核が安定な状態に移る時に発生する電磁波で、エックス線は原子から発生する電磁波です。そして放射線の種類によってものを透過する能力が異なります。
歴史上最初に発見されたのはエックス線で、蒸気タービンの開発とほぼ同じ時期の1895年にドイツのレントゲンが物質を透過する目には見えない光のようなものを発見しました。最初はその正体がわからなかったため未知を意味する「X」が名前につけられました。翌年、フランスでウラン鉱石と一緒にしまっておいた写真乾板が感光していたことから、ウランには自然に放射線を発生する能力=放射能があることが発見されました。1898年にはイギリスで、ウランから2種類の放射線が出ていることが発見され、アルファ線とベータ線と命名されました。2年後にフランスでエックス線に似た透過性の強い別の放射線が発見され、ガンマ線と命名されました。さらにイギリスで陽子、中性子が発見され、また1898年にはキュリー夫人が新しい放射性の元素ポロニウム、続いてラジウムを発見し、ラジウムはその後、病気の治療などに利用されています。
原子力発電は、放射性物質のウランを核分裂させ熱エネルギーを得て水を沸かし、その蒸気の力で蒸気タービンを回転させて電気を起こす仕組みです。核分裂はウランなどの重い原子に中性子を当てて軽い原子に分割することで、1938年には実験で確認されており、4年後にアメリカの研究用原子炉で世界初の臨界*を達成しました。原子力発電所においては原子炉を臨界状態に保つことで発電をしています。1954年、世界初の実用原子力発電所としてソ連オブニンスク原発において発電が行われ、3年後には日本初の原子炉JRR-1(茨城県東海村)が建設され、臨界を達成しました。
*臨界:核分裂連鎖反応が継続的に続き制御できる状態を指す
核分裂が重い原子核が分裂する際にエネルギーを放出するのに対し、核融合とは水素・重水素・三重水素のような軽い原子核同士が融合してより重い原子核(ヘリウム)になる際にエネルギーを放出することです。核分裂よりも早い1932年には実験で確認されていましたが、実用に適した連続的な核融合反応を起こすためには超高温が必要なため、当初は着目されていませんでした。しかし現在では重水素や三重水素などの豊富な資源を使う未来のエネルギーとして期待されており、各国で実用化を目指した研究開発を行っています。
エネルギーを考える上で、今、問題視されているのが地球温暖化です。私たちは太陽からの電磁波で膨大なエネルギーを受け取り、そのエネルギーを地球から反射したり、熱として宇宙空間に放出しています。しかし温室効果ガスが増えて地球を覆うと、放出するエネルギーの量が減り熱がこもる状態になります。これが地球温暖化で、生態系の変化のみならず、水・食糧不足、健康にも重大な影響を与えています。
気候変動に関する国際的な組織IPCC*ではさまざまなシナリオを予測しており、今後も化石燃料に依存していくと、2100年までに地球の平均気温は5.7℃上昇すると想定しています。そして望ましいシナリオとしては、産業革命時の1850〜1900年比で約1.5℃に抑制するとあります。そのためには、地球温暖化の原因である温室効果ガスのうち9割以上を占めるCO2排出量を今世紀半ば頃にゼロを目指すカーボンニュートラル以外に道はないと考えています。
*IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change 日本語名は気候変動に関する政府間パネル
2022年の国別CO2排出量のデータでは、中国、アメリカ、インドの3カ国で世界の排出量の50%以上を占めているので、削減にはこれらの国の動向が重要です。日本は世界で5番目ですが、人口あたりの排出量ではインドを抜くので、やはり排出削減の努力が必要だと思います。しかしこれまで省エネなどの取り組みを進めてきたため、2013年をピークとして次第にCO2排出量が低下しており、また生産活動の停滞もあり、これ以上の排出量削減をどうするかが問題となっています。
日本ではCO2排出量の約6割を燃料・原料が占め、残り4割を発電が占めています。燃料・原料の中では、産業部門が21.4%、運輸部門が18.5%と占める割合が大きく、特に産業部門では鉄鋼業が最も大きく、次いで化学工業、機械などの順になっています。運輸では自家用車、トラック、バスなどの車両が大半となります。そのため、これらの部門での大幅なCO2排出量削減が重要課題となり、その解決の一つの手段として挙げられるのが、燃料・原料における大量の水素利用です。しかし水素を製造するためには膨大なエネルギーが必要です。2023年度において日本の一次エネルギー供給の約80%を占めるのはCO2排出量が多い化石燃料でした。再エネは水力を除き約8%、そして原子力は約4%にとどまっています。CO2削減のためには再エネや原子力の利用拡大、特に原子力は発電以外に水素製造においても有力なエネルギー源と考えられます。
水素は軽く透過しやすいため地上では単独で存在することはほぼなく、水や化石燃料などの化合物として存在するので、熱や電気などのエネルギーを加えてこれらの化合物を分解して製造する必要があります。日本原子力研究開発機構(原子力機構)ではこれまで原子炉からの熱を利用した水分解法を研究しており、その原子炉が高温ガス炉です。
現在、日本で発電に使用されている原子炉は軽水炉と呼ばれ、高温ガス炉との違いは炉心の構造体と冷却材にあります。軽水炉の中心部、炉心の材料は金属で、ウラン燃料も金属の被覆管に入れられています。これに対して、高温ガス炉の炉心の材料は耐熱性の高いセラミックス材である黒鉛、燃料もセラミックス材に覆われています。また、軽水炉の燃料を冷やす冷却材は水ですが、高温ガス炉はヘリウムガスです。これらにより原子炉出口で850~950℃の高温熱を取り出すことができます。
高温ガス炉の構造は、中心にウラン燃料、その周囲をセラミックス材である炭化ケイ素や炭素で被覆した被覆燃料粒子を円筒状の燃料棒に挿入し、さらに六角形状の燃料体に収納、上下左右に並べて炉心を構成します。この構造のために燃料の密度は軽水炉に比べ小さく、軽水炉に比較して大型化やコンパクト化は難しくなりますが、逆に安全面では優位になります。
安全性について詳しく説明すると、軽水炉では燃料の被覆管が金属製なので、冷却水が減り1,000°Cの高温になると金属被覆管が壊れ、放射性物質が冷却材の中に漏れ出る可能性があります。高温ガス炉の場合は、燃料が耐熱性に優れたセラミックス材で被覆されており、炉心の構造材がセラミックス材であるため、高温になっても燃料や炉心が壊れにくく、放射性物質が冷却材の中に漏れにくいという特徴があります。軽水炉の場合は福島第一原子力発電所の時のように、冷却水が高温の蒸気になって金属被覆管と反応して水素が発生し、水素爆発が起こる危険性がありますが、高温ガス炉の冷却材は化学反応を起こさないヘリウムガスのため、高温になっても水素が発生しません。
原子炉の重大事故の原因といえば冷却能力の喪失です。軽水炉のECCS*が作動すれば、冷却水が供給され安全性が確保されますが、電源喪失などにより作動しない場合には、冷却水がなくなって金属被覆管が壊れたり、炉心の温度が短時間で上昇して燃料が破損する可能性があります。一方の高温ガス炉は、ECCSを設置する必要がありません。冷却材のヘリウムガスは水のように蒸発して無くなるわけではなく、仮にヘリウムガスの循環が停止し、燃料の温度が上昇しても、ウランが捕獲する中性子が減るために核分裂が減少して、自然に原子炉が停止します。この現象は後述するHTTRを用いた実験で証明しています。また、燃料の密度が小さいために放射性物質の崩壊熱も構造物や圧力容器を通して炉外へ自然に放出できます。このため特に対策は不要であり、優れた安全性を有しています。
*ECCS:Emergency Core Cooling System 日本語名は非常用炉心冷却装置
高温ガス炉は1960年代から世界で建設・運転が始められていましたが、その当時は経済性の見通しが立たなかったため、80年代までにほぼ運転が終了しています。現在、稼働しているのは3基のみで、中国の試験研究炉と商用発電炉が各1基、日本の原子力機構大洗工学研究所に設置されたHTTR*です。熱出力は30MW(メガワット)で、原子炉出口の冷却材温度は950℃です。
*HTTR:High Temperature engineering Test Reactor 日本語名は高温工学試験研究炉
同じ大きさの原子炉圧力容器で比較すると、軽水炉の熱出力は約3,000MW、高温ガス炉の熱出力は600MW程度が最大ですから軽水炉の約1/5程度です。ただし軽水炉の出口温度が300°Cで発電にしか使えないのに対し、高温ガス炉は850〜950℃と高く、化学製品や水素の製造が可能です。高温ガス炉は軽水炉に比較して大型化の点で劣っていますが、発電以外の利用が可能であり、また、優れた安全性を有していることから世界各国で関心が高まっており、研究開発が行われています。
現在、HTTRではメタンの水蒸気改質による水素製造システムを接続する準備を進めており、2030年の水素製造を目標にしています。HTTRの原子炉で950°Cの熱を出し、中間熱交換器を通して1次ヘリウムガスを2次ヘリウムガスに交換、水蒸気改質器や蒸気発生器に2次ヘリウムガスで熱を供給し、水素製造の熱源とします。原子炉の周囲で水素を製造する際の安全性を確保する対策として、熱源である原子炉と水素を作る施設とは距離を離し、両施設をつなげる2次ヘリウムガス配管が事故時に水素ガスなど可燃性ガスや放射性物質の移動を防ぐために中間熱交換器や隔離弁などの多重の防護障壁を設けています。この試みは単に水素製造のみを目的としたものではなく、原子力を化学プラントなど、多目的に利用するためのルール作りの点でも重要な試みです。
水素製造の原料に水ではなくメタンを使うとCO2が発生するので、水の熱分解による水素製造の開発も行っています。水を単に熱分解するためには4,000℃以上の高温熱が必要ですが、ISプロセスでは高温ガス炉で900℃以下で熱分解できます。仕組みは、水の成分の一つである水素を結合しやすいヨウ素(I)に、もう一つの成分である酸素を結合しやすい硫黄(S)に結合させ、ヨウ化水素と硫酸を作り(ブンゼン反応*)、これらを取り出し加熱分解して水素と酸素を取り出します。残った硫黄とヨウ素は元に戻してプロセス内で循環させることにより、水素と酸素以外はプロセス外へ排出されません。
*ブンゼン反応:二酸化硫黄、ヨウ素、水が反応して硫酸とヨウ化水素を生成する化学反応
最終的には原子力の多目的利用による水素製造技術を確立し、カーボンニュートラルの実現で地球温暖化対策に貢献できればいいと考えています。
フリーディスカッション
「高温ガス炉運転には海水を冷却水として使うのか」という質問に対して、「海水を使う必要がないから内陸に原子炉を設置できるメリットがある」と答えられ、「ISプロセスは1カ所で大量に水素を作って配給するのと、分散拠点で作るのとどちらが経済的にいいか」という問いには、「大きなプラントで大量生産し、製鉄や化学工業などに使う方がメリットは大きい」と答えられました。また「クリーンな水素の製造というイメージだが、CO2の回収はどうするのか」に対しては、「原料に化石燃料を使う場合はCO2が出るので、排出されたCO2はCCSで回収する。ただ最終的に目指しているのは水からの水素製造だ」と答えられました。
元 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構研究主席 博士(工学)
1981年、九州大学大学院修士課程を修了後、日本原子力開発機構の前身である日本原子力研究所に入所。950℃の熱を供給できる高温ガス炉の開発とそれを利用した水素製造の研究開発に従事。