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松江エネルギー研究会

《日 時》
2025年9月7日(日)9:30〜11:30
《会 場》
島根県民会館2F多目的ホール (島根県松江市殿町158)
《テーマ》
気候の危機にどう向き合うか

近年の猛暑や頻発する気象災害の背景にあると言われている地球温暖化。私たちはこの問題をどのようにとらえ、エネルギー技術の方向性、社会の方向性に対して行動していけばいいのでしょうか。温暖化対策を進める社会の転換期への向き合い方について、江守正多氏(東京大学未来ビジョン研究センター副センター長・教授)に詳しくお話を伺った後、質疑応答が行われました。

講演
気候の危機にどう向き合うか

対策をしなければ地球温暖化はより深刻になる

日本の年間平均気温は過去100数十年間、ばらつきはあるものの上昇しており、一昨年、去年と記録を更新しています。世界の平均気温も過去60年で見ると変動しながら上昇し、昨年はエルニーニョ現象による変動の上振れだったとも言われていますが、産業革命前から比較し1.6°C超の上昇で注目されました。気象庁発表の日本の今夏(6-8月)の平均気温は、猛暑だった一昨年、去年を大幅に上回り、日最高気温も過去最高の41.8°Cを更新しました。今年は世界の平均気温がそれほど高くなかったのに、日本では周囲の海水温が異常に高く、加えて高気圧に覆われたせいで高温になったといえます。

地球は太陽からエネルギーをもらって7割を吸収する一方で宇宙に向かって赤外線としてエネルギーを放出しています。もし赤外線が遮られずに宇宙に逃げていくと地球は寒くなりますが、実際は地表面の周りに大気があり、大気の中にある温室効果ガスが宇宙に逃げようとする赤外線を吸収して地表面に戻してくるおかげで地球の温度は一定に保たれてきました。1万年前に氷河期が終わって以来ずっと地球の温度が安定してきたからこそ人類の文明が築かれたのです。しかし今では人間が大気中に大量の温室効果ガスを排出しているので、赤外線がさらに吸収され地表に戻ってくるため、温度が上昇し地球温暖化をもたらしていると考えられています。

人間による温室効果ガス排出増加がいつから始まったかというと、産業革命からです。18世紀初頭にイギリスで始まった産業革命の影響で世界中で石炭、石油、天然ガスを燃やすようになり、排出量が増加を続けています。温暖化の原因が本当に人間活動の影響によるものなのかを検証するため、科学者はシミュレーションを行いました。その方法は、コンピューターの中で、さまざまな条件を変えて地球の大気、海の温度などを模擬再現します。その結果と、実際の世界平均気温観測値を比較すると、自然要因のみのシミュレーションに比べ、人為的な要因を加えた場合の方が、実際の気温上昇とマッチングすることが判明しました。この結果を踏まえて、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書では、人間の影響による温暖化には「疑う余地が無い」と結論づけています。


■ 産業革命前からの世界平均気温変化  


将来の世界の気温をコンピューターでシミュレーションすると、自然現象による気候の変動はあるとしても、温暖化対策を全くしなかった場合は対策をした場合に比べて2100年頃には産業革命前より5°Cも上昇すると予測され、場所によってはもっと上昇が見込まれます。温暖化の影響を受ける海面上昇については、対策をしなければ今後数千年は続くとも予想されています。海水の熱膨張も原因として挙げられますが、すでに南極の氷なども減り始めており、それがある限度を超えるティッピングポイント(転換点)で、氷の減少が加速して止まらなくなり、2050年には100年に一度の高潮の頻度が20〜30倍にもなって10億人が被災、さらに2300年には15mもの海面上昇の可能性を否定できない予測になっています。ほかにも、熱波、強い台風や洪水、感染症、水や食料不足、また森林火災も発生するリスクが高まります。

社会的側面から温暖化の影響を考えてみると、誰が深刻な被害を受けるのかという問題があります。ほとんど温室効果ガスを出していない小さな島国の住民は、海面上昇による高潮の影響で家も畑も流されます。また乾燥地域の住民は厳しい干ばつで水も食料も手に入れられなくなります。こうした脆弱な国々の人たちに温暖化の責任はありません。しかし世界のすべての人が一様に問題意識を持つかというと、例えば先進国のアメリカでトランプ政権支持者は、温暖化の知識がある人でも問題視はしていません。社会的なアイデンティティのグループにより温暖化に対する見方が左右され、社会の中で温暖化について考えを共有していくのはとても難しくなっています。


持続可能な世界のために必要な変化とは

社会として温暖化にどのように対応するのか。対策には大きく分けて緩和と適応の2つがあります。緩和は温暖化を止める対策で再エネの普及や省エネなどです。すでに出ている温暖化の影響に対しては、防災・減災の強化や熱中症対策など適応が必要です。いますぐ必要な適応ではあっても、温暖化が進めば限界があり、温暖化そのものを止めなければなりません。


■ 2種類の対策が必要  


国際社会では1992年に気候変動枠組条約が作られ、97年に京都議定書が採択されました。さらに2015年のパリ協定では「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2°Cより十分低く保つとともに、1.5°Cに抑える努力を追求する」長期目標が合意されました。この目標のための「今世紀後半に人為的な温室効果ガスの排出と吸収源による除去の均衡を達成する」方策がカーボンニュートラルです。化石燃料に依存するエネルギーからCO2を排出しないエネルギーの再エネと原子力を増やして、さらには電化が重要な鍵になります。ただどうしても電化できないところは燃料体のエネルギーが必要になるため、化石燃料をまだ使う部分についてはCO2を回収して地中に閉じ込めるCCSを使ったり、あるいは水を分解してできる水素とCO2を合成して燃料をつくることも必要です。このように世界のエネルギーシステムをすべて方向転換していけば、原理的にはCO2を出さないシステムが作れるという考え方です。

ただし現状、変化のペースは遅く、温暖化対策に必要な投資も不十分です。気温上昇を2°Cまたは1.5°Cに抑えるシナリオでは、2020~2030年に緩和に対して必要な年間平均投資額は現在の水準の3〜6倍という試算が発表されています。

現在、世界のエネルギーの8割を化石燃料が占めています。近年はコロナ禍で石油は一時減少、ウクライナ戦争で天然ガスも少し減少しましたが、もしこれらがなければ増加の一途かもしれません。というのは、今後も発展を続ける世界の新興国や発展途上国ではエネルギーの需要が増えていくからです。一方で原子力は横ばい、水力は少し増加、水力を除く再エネは加速度的に増えていますが、化石燃料を置き換えるためにはまだ全く足りていません。

IPCCは、排出削減の低コストな手法はいろいろあるし、今の技術からスイッチした方が安価になる場合もあると評価しています。また気候変動対策とシナジー効果があるSDGs(持続可能な開発目標)も着目点です。17の目標の中で13番目は「気候変動に具体的な対策を」ですが、例えば3番目の「すべての人に健康と福祉を」との関係では、化石燃料消費が減れば大気汚染が減るから健康に良いというシナジーがあります。日本の場合はまた、化石燃料消費を減らせば貿易収支が改善されエネルギー安全保障上の利点にもなります。

IPCCの最新報告書の最後には「選択と行動によって将来の世界が決まっていく」と書かれています。気候に対してレジリエントな開発を進めていけば、時間が経つにつれ世界を良くすることができ、2100年には温暖化が止まり、気候リスクの低い持続可能な世界になるのだから、それを目指そうということだと解釈しています。今生きている世代の人類がどういう選択と行動をするかによって、将来世代の選択肢を狭めてしまう可能性もあります。気候変動対策を早く進めることが重要で、人類はそのために必要な資金も技術の大部分も持っているのだから、実現不可能になる前に今すぐ舵を切った方がいいと思います。また私としては非常に大事だと思うのが、脱炭素化を急激に進めると、得する人と損する人が出るので、社会を変えていく過程では、利害調整や合意形成、信頼獲得などがポイントで、この「調整スピード」を加速する必要もあると思います。 


社会の大転換のために私たちができること

日本の温室効果ガス排出量は2013年がピークで、20年には当時の菅首相による「2050年カーボンニュートラル宣言」があり、現在の排出量は直線的に減少しています。要因は、原発の再稼働、再エネ増加や、残念なことに日本の工業生産力の減少もあります。ただしこのペースが続くのかは不透明です。今後はゆっくり進めた方が技術の進化でコストダウンになるという意見や早く減らした方が国際的責任を果たせるとか、野心的な目標を掲げた方が脱炭素技術の投資が日本にやってくるなどの意見がさまざま出たものの、今年2月に政府が国連に提出したのはこれまでに準じた直線的な排出量削減目標でした。

気候変動対策に対して、世界と日本では向き合い方が少し違います。対策をすると「生活の質を脅かす」と答えた人は世界平均で30%未満なのに対して、日本では60%を占め、「生活の質を高める」と答えた人は世界平均で60%を超えているのに対して、日本では17%にとどまりました。日本人にとって気候変動対策は我慢であるように思えます。でも便利で快適な生活を捨てて地球のために我慢や負担を強いられるといった考え方で、排出ゼロを目指せるでしょうか。

だから社会の「大転換」が起きる必要があるのです。社会のルール、インフラ、技術がガラッと入れ替わるようなイメージです。その結果、人々の常識が変わると思っています。例えば分煙ですが、受動喫煙による健康被害が立証され、健康増進法で受動喫煙防止が義務化され、さらに分煙・禁煙の飲食店が主流となって今や分煙が常識になりました。同様に、今は普通に生活をしているだけでCO2が出るのが常識ですが、世界が脱炭素化したら、今の私たちは非常識になります。

技術が変わるためには、技術を促進する制度を社会的に受け入れたり、産業や仕事が変わったり、社会全体が大きく変わる必要があります。また私たち一人ひとりが理解し対策が進むことに賛成する、賛成できない部分には意見を言う、共に考える、対策が進まなければ声を上げることが大事です。ルールができれば、関心がない人も含めてみんながいつの間にか変わっていくのです。

問題解決に向けては、価値観の違いや立場の違う人と対話をする機会をもっと設ける必要性もあります。地球温暖化問題を解決するには、技術と社会変革という2つの面が鍵になっていきます。技術側からは、水素、アンモニアを使ったり、次世代原子力の開発、CO2を取り除く技術を支援しようとしますが、反対する意見や不安もあります。また社会変革の面からは大量生産、大量消費、大量廃棄をこのまま続けていたら、技術を入れ替えても解決しないと思っている人が多いように思えます。ただ逆から見ると、物が売れなくなり景気が悪くなり失業者が出ると考える人もいて、どうしても対立構図に陥りやすいです。どちらが正しいというのではなく、自分と違う考えの人の存在を認めながら自分ならどうするかを考えるべきです。ともすると温暖化対策はコストやリスク、効果、実現可能性の議論になりがちですが、最終的には幸せとは何か、豊かさとは何か、そしてどんな社会に生きていきたいかまでを考えることが重要ではないかと思います。


■ 地球温暖化問題「解決」の鍵は  


人類は今、「化石燃料文明」を卒業して、次の文明に行くタイミングが来ていると私は考えます。かつて化石燃料の枯渇を心配していたのに、最近では余っていても使うのをやめる方向に向かっているわけで、埋蔵している化石燃料を埋めたままにしておくのがパリ協定の目標に整合するのです。我慢して化石燃料を使わないのではなく、より良いエネルギーやシステムを手に入れて、次の時代に向かっていくイメージです。今日の話を聞いていただいた方々には、何らかの形で卒業を早めさせるよう、後押しをしていただけたらいいなと思っています。

  


質疑応答

Q:大学生の自分に身近でできる温暖化対策を知りたい。
A
:興味を持ったら定期的に情報をチェックしたり、温暖化対策に関わるムーブメントを起こそうとする人をSNSでフォローしたり、社会の仕組みを変えるために後押ししたらいいと思う。また時間をかけて社会が変わっていく中で、どこかのタイミングで自分ができることを探してほしい。

Q:今の20、30代が温暖化についてどのように考えているのかを聞いてみたい。
A
:SDGsについては、2017年から学習指導要領に入って学校で習っているので、温暖化についても自然に受け入れていて、今後、社会を変えようと積極的に考える世代の割合が増える期待がある。一方、20代後半から30代にかけては気候変動にあまり関心がない世代で、新聞も読まないしテレビも見なくなり、情報はインターネットで取得しているから自分に関心があること以外はあまり情報を探さないからともいえる。

Q:世界の人口増加も気候変動の要因だと思うが関連性はどうなのか。
A
:戦後から今まで世界のエネルギー需要の増加には、人口増が要因としてあると思う。この先もやはり人口増が心配という論点もあるが、今人口が増えているのは低所得の国であり、一人当たりの温室効果ガス排出量はとても少ないからその人たちに気候変動は人口増のせいだと言うのはフェアではない。一方、インドのように人口が増加し、個人が豊かになり、排出量も増えていくと、世界の増加要因となるのも確かだ。増えた人口がなるべく脱炭素エネルギーを使うよう支援することが必要だ。

Q:アメリカがパリ協定離脱で今後はどうなるのか。それと世界は2050年のカーボンニュートラルを実現できるのか。
A
:アメリカは脱退したが現状では追従する国がないので、世界の国々は気候変動対策にまだ前向きだと思う。アメリカでは連邦政府は全力で妨害しているが、対策をすべきと考えている州、都市、企業は半分以上はあるので進んでいくと考えている。また世界のカーボンニュートラル実現はかなり難しい。まじめな日本人はやる気になればできるかもしれないが、これから発展する国々については現状では先が読めない状況だ。



江守 正多氏(えもり せいた)氏プロフィール

東京大学未来ビジョン研究センター副センター長・教授
1970年神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業。同大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。 1997年より国立環境研究所に勤務。国立環境研究所気候変動リスク評価研究室長、地球システム領域副領域長等を経て、2022年より東京大学未来ビジョン研究センター教授。総合文化研究科教授を兼務。気候変動に関する政府間パネル第5次、第6次評価報告書主執筆者。著書『異常気象と人類の選択』、『地球温暖化の予測は「正しい」か?-不確かな未来に科学が挑む』など。   江守正多X

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