エネルギーのおかげで私たちの暮らしは豊かになってきた歴史があります。しかし今と同じようなスタイルでエネルギーを使い続けると地球温暖化はどうなってしまうのでしょうか。対策について検討すべきポイントについて、秋元圭吾氏((公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)システム研究グループリーダー・主席研究員)に詳しくお話しいただきました。

世界のCO2排出量は、金融危機やコロナの感染拡大による経済悪化時以外は、1990年からずっと伸び続けています。CO2は地球温暖化をもたらすと言われ、1997年に採択された京都議定書でCO2削減を目指したものの、2000年代になってからむしろ排出量の増加上昇速度が高まっています。その理由は中国の急速な経済成長です。かつて高度経済成長期の日本でもCO2排出量が大幅に増加したのと同様に、人口増加で大規模なインフラ整備の見込みがあるインドやアフリカ諸国など新興国が経済発展していけば、今後もCO2排出量は確実に増加します。
18世紀後半に石炭を使った蒸気の動力により産業革命が起きました。薪などの生物由来の資源や水力を使っていた時代と比べ、蒸気タービンや蒸気機関車のおかげで社会は格段の発展を遂げ、さらに石油、天然ガス、原子力、また太陽光や風力といった新しいエネルギー源を使って進歩してきた歴史があります。しかし化石燃料は燃焼するとCO2を大量に排出するため、世界のCO2排出量は増えました。そして昨年、世界の平均気温は産業革命前と比較して1.5°C上昇し、今年の夏もヨーロッパの一部で猛暑が続き、日本でも外を歩くのが危険なほどの暑い夏が続きました。こうした気温上昇をどうしたら抑制できるのか、考えていかなければなりません。
温暖化は負の側面ですが、エネルギーは私たちにこれまで多くの恩恵をもたらしてくれました。たとえば、小麦の収穫量は、空気から窒素の化学肥料を作る工業的な合成方法に必要な大量のエネルギー投入ができたおかげで急激に増加しました。また子供の死亡率低下もエネルギーの利用で清潔な環境と医療設備が整備された結果であり、人力で行ってきた作業をエネルギーが代替えし、世界の人口は増加、所得も増え豊かな世界になってきたわけで、エネルギーの重要性をしっかりと認識すべきです。
エネルギーの中で電力消費についての国際エネルギー機関(IEA)のデータに注目すると、1971年から世界のGDP(経済成長)と電力消費量の関係には上向きの強い相関関係があり、今後も世界の電力需要は増加すると見られています。需要を抑制するなら経済活動や所得の増大も諦めるしかないということがわかります。ただし日本も含めアメリカや欧州など先進国ではGDPは上がっても電力消費量は下がる傾向にあります。なぜかというと、もともとは自国内で生産・消費してきたのに、電力を使う製造業がより安い電力価格の国々に生産拠点を移し、それらの国々から輸入し消費しているからです。先進国は製造業の代わりに金融業、保険業、IT産業などサービス産業で経済成長しており、先進国で電力消費が減っても世界全体で見るとCO2排出量は増え続けます。
日本では高度経済成長期には電力消費量が上昇し、GDPや所得も上昇しました。ところが石油に依存していたためオイルショックで電力価格が上がったので、石油以外の天然ガスや原子力といったエネルギー資源を組み合わせて利用することでリスク回避を試みたのです。しかし最近の電力消費量減少の理由は、省エネの効果というより実は製造業が他国との競争に負けているからといえます。
日本にはエネルギー自給率が主要先進国の中でほぼ最下位だという課題もあります。日本は1.2億人の人口のためにはそれなりのエネルギー量が必要で、今はものづくりがメインといってもいい国です。産業の移行には長期の時間がかかるため、エネルギーの安全保障には自給率向上が重要課題です。また最近のウクライナ・ロシアの戦争で、ロシアからの天然ガス供給が止まり世界の価格が高騰し、日本と同じようにものづくり国のドイツは、エネルギーのロシア依存と脱原発だったこともあり、大きなダメージを受けました。また再エネの太陽光パネル、風力の風車、蓄電池などの技術は世界シェアがほぼ中国製です。従って再エネへの過度の依存も考慮しなければなりません。電源別CO2排出量が最も多いのは石炭火力発電で、再エネや原子力はほぼゼロです。CO2をゼロにするなら、石炭をLNG火力に、またLNG火力を原子力や再エネに変えればいいのですが、問題は再エネの電力価格はまだ高く、電力コストが上がれば、産業は海外に移転し雇用が失われ、国内経済は衰退します。そのため日本では安価な燃料の石炭使用を続ける必要があります。
これまでに累積されたCO2排出量と気温上昇には、ほぼ相関的な関係があると気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は報告し、もしも気温を安定化させようとするなら、世界の排出量をゼロに近づけなければできないと考えています。京都議定書では先進国だけが温室効果ガス削減が義務付けられていましたが、2015年のパリ協定では「世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ2°C未満に十分に低く抑え、1.5°Cに抑えるような努力を追求。今世紀後半には温室効果ガスの人為的起源排出とシンク(森林などの吸収源)による吸収をバランス」という目標のため、途上国を含む全ての参加国に排出削減努力を求めました。日本ではその手段として2016年に「地球温暖化対策計画」を閣議決定し、2030年度に13年度比26%減の中期目標と、2050年に80%減を目指す長期目標を掲げていました。さらに2020年、当時の菅首相が2050年カーボンニュートラルを宣言しています。
仮に世界の国々が現状政策のままだと気温上昇はどこまで進むのかというと、産業革命前と比較し2.9°C上昇すると国連環境計画(UNEP)は試算しており、昨年1.5°C上昇しただけでも暑さが厳しかったのに、その2倍近い数値になります。その上、反温暖化対策のトランプ政権になる前の試算なので、場合によってはさらに気温が上昇する可能性があります。とはいえ、世界の国々はそれぞれが異なる意志で動いているため、CO2排出量が世界の3%しか占めていない日本だけが対策しても世界全体の気温上昇には全く効果がありません。
地球温暖化対策には不確実性や各種対策の特徴を踏まえて、総合的にリスクマネジメントする必要があり、その中で大きなものとしては、CO2排出を削減して気候変動の影響を緩和する「緩和策」と、激化する気候変動への適応を考える「適応策」があり、他にはたとえば火山噴火で出た硝酸塩エアロゾル核酸による低温化を参考にこの物質を人工的に散布するといった気候工学的手法もあります。ただ現実的と言えるのは被害を最小限にする「適応策」で、堤防を高くする、災害発生可能性がある土地から移住するなどの方法です。日本では「緩和策」のさまざまな手段を考えています。大きな方策は3つ。再エネ、CCS(CO2回収・貯留)、原子力の利用です。万能技術はないので組み合わせるしかありません。それぞれを以下で個別に見ていきます。
再エネのコストは世界的に下がっているのですが、日本では世界より2倍高く、その理由は多発する地震のため補強する土台費用が必要であるなど自然環境の要因があり、世界との差は永遠に縮まりません。また日本の国土は狭く平地が少ないのに平地面積あたりの太陽光設備容量は世界でトップであり、山を切り開いてパネルを敷き詰めたために土砂崩れが起きるなどの問題が起き、地域住民と事業者との対立をもたらしています。そしてお天気任せの再エネなので電力の需給バランスは火力発電などで細かく調整していますが、導入が増加するとバランスが崩れ、大停電に陥る可能性があります。実際、2022年3月には東京電力、東北電力管内でギリギリの状態になり、今後も電力需給逼迫のリスクが高まる可能性があります。
CCSは石炭火力から出るCO2を煙突から出る前に回収して地下に埋める方法です。またバイオマスエネルギーとCCSを組み合わせたBECCSは、植物が光合成でCO2を吸収し、そのバイオマスを燃焼させた発電時に発生するCO2を回収し地下に貯留する技術で、大気中のCO2を実質的にマイナスにできます。ただし成熟しきった木では吸収ができませんし、膨大なエネルギー量に対して排出するCO2を吸収できるような植林の土地は世界にはありません。大気中のCO2を直接回収するDACと、回収したCO2を地下に貯留するCCSを組み合わせたDACCSのデメリットは、大気中のCO2が非常に希薄なため回収に膨大なエネルギーがかかりコストが高いことです。
原子力については、他のエネルギー源と比較し安定供給において優位性が高いです。太陽光発電は原子力発電所の面積に比べ100倍も必要ですし、化石燃料はウランより大量の燃料が必要です。またウランの国内在庫日数も、天然ガスの53倍、石炭の37倍の余裕があるため、安全保障上のメリットがあります。しかし2011年の福島第一原子力発電所の事故後、再稼働はあまり進みませんでした。安全性の担保は最優先ですが、CO2もほとんど排出せず安価な電力を生み出すので地域の雇用や所得の上昇など経済の好循環に有効です。
原子力に関する世論調査において、原子力を維持した方がいいという考えが増加しつつあります。他の電源やCCSなどを考慮しても、私は、長期間原子力の使用を続けるべきではないかと考えます。そして60年まで運転を延長したとしても、このままでは日本の原子力発電は2060年には8基しか残りません。カーボンニュートラルを実現するならば、やはり新設やリプレースも念頭に置くべきではないかと考えています。
ただアキレス腱となるのは、廃棄物処分地が決まっていないことです。この問題は、将来の原子力利用とは別に、過去の廃棄物についてしっかり考えて、どのように国民や地域に理解を求めていくかが注目されています。また最近の話題として、廃棄物処分地が決まっていないアメリカでは、電力の安定供給が必須のデータセンターの需要の高まりとともに、電力需要増加に合わせて原子力活用の動きが強まっていることもあります。
その他、カーボンニュートラルに有効な次世代エネルギーとして、水素、アンモニア、合成メタンが挙げられます。化石燃料から水素を製造する際、発生したCO2を回収し貯留したり(CCS)、再利用(CCUS)してCO2排出量を削減したブルー水素や、再エネの電気を使って水電解して作られるのがグリーン水素です。ただし海外で大量の再エネを一度液化して運搬する場合、超低温にしなければならず、コスト高になるのが問題です。そのため水素+窒素=アンモニアにすれば、LNGとほぼ同じ条件で液化できるので比較的安価に手に入れられます。そのほか回収したCO2と水素を化学反応させ人工的に作った合成メタンや、同じような手法で作られた人工的な原油と呼ばれる合成燃料は既存の設備で使うことができるメリットがあります。いずれにせよ、製造、運搬のコストなどさまざまな要件を検討してから導入を考えるべきです。また日本ではこれまで省エネが推進されており、今後も継続しエネルギー消費量の削減をはかるべきだと思います。
気候変動対策としてカーボンニュートラルを早期に実現する要請は強まっています。一方、CO2削減だけを考えた対策では電力価格は高くなり産業が衰退します。万能なエネルギーは存在しないので、安定的で安価な電力供給による経済安全保障のため、それぞれのエネルギーの長所短所を考慮した総合的なエネルギー政策が重要だと考えています。皆さんにも色々な課題を理解いただき、より広い視野でエネルギーについて見て考えていただきたいと思っています。
(公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)システム研究グループリーダー・主席研究員
1970年生まれ。1999年横浜国立大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)。同年、財団法人地球環境産業技術研究機構入所、2007年同 システム研究グループリーダー・副主席研究員、2012年11月より現職。2010〜14年度東京大学大学院総合文化研究科客員教授(兼務)。2012〜2020年日本学術会議連携会員。東京科学大学総合研究院特任教授。IPCC第5次、第6次、第7次評価報告書代表執筆者。総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 発電コスト検証WG委員(座長)、同電力・ガス事業分科会次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会委員、同省エネルギー・新エネルギー分科会水素・アンモニア政策小委員会委員、産業構造審議会イノベーション・環境分科会中長期地球温暖化対策検討WG委員、排出量取引制度小委員会委員、調達価格等算定委員会委員(委員長)など、政府の各種委員会委員も務めている。エネルギー・環境を対象とするシステム工学が専門。