ETT企画委員が企画した勉強会を経団連会館とZoomによるオンライン参加のハイブリッド型で開催しました。日本の電力安定供給にとって欠かせない原子力発電は、安全性を高めながらこれからどのように新しい形態で進化していくのでしょうか。次世代革新炉開発の現在の状況やこれからについて、宇井淳氏((一財)電力中央研究所副研究参事)に詳しいお話を伺った後、メンバーによる意見交換と質疑応答を行いました。

国内で現在稼働している原子力発電所の原子炉は2種類あります。1つは原子炉で水を沸騰させて蒸気を作り、直接タービンに送る沸騰水型軽水炉(BWR)、もう1つは原子炉の水を高温・高圧の状態にして蒸気発生器に送り、別系統の水を沸騰させて蒸気を作ってタービンに送る加圧水型軽水炉(PWR)です。軽水とは普通の水のことです。後ほど核融合のところで重水素、三重水素(トリチウム)が登場します。
発電所では原子力ならウラン、火力なら天然ガスや石炭を燃料として使って発電し、つくられた電気を送電線で変電所に送電し、そして最終的に家庭や工場等に配電しています。この時、電気を使う量とつくる量がちょうどよくバランスが取れていないと停電になるため、電力会社は細かい調整をしています。電気のつくり方は、火力、原子力、風力、核融合なども基本的に同じです。タービンやブレード(風車翼)を回すことで発電します。ただし太陽光発電のみ半導体から直接発電しています。
軽水炉では、原子燃料が入った燃料集合体を格納している炉心において、ウランに中性子を当てると核分裂を起こし、この時に発生する大量の熱を発電用の熱源として利用して、水を蒸気に変えタービンを回転させて電力を生み出しています。核分裂した直後の中性子はスピードが速くウランを当てても次の核分裂が起こりにくいため、燃料棒の隙間に水を流して中性子の速度を落とし、ゆっくりと一定の割合で連続して核分裂するようにしています。核分裂の連鎖反応が釣り合って持続している状態を臨界と呼びます。燃料棒の配置や炉心の流量などを調整することで、1年以上連続して原子炉を運転可能です。
福島第一原子力発電所の事故の教訓を踏まえ、従来より安全性が高い次世代革新炉の開発が進められています。次世代革新炉と呼ばれている原子炉は、革新軽水炉、SMR(小型モジュール炉)、高速炉、高温ガス炉、核融合炉の主に5種類あります。それぞれの特徴や仕組みなどを以下で説明します。原子炉を建設するには、概念設計、基本設計、詳細設計を行い、原子力規制委員会の審査を受けて許可を得ることが必要です。建設後に運転に関わる審査を受けて運転を開始します。国は、今後、革新軽水炉や小型軽水炉等について2030年代には建設開始、2040年代には運転開始というスケジュールを考えています。実際にはそのスケジュールより時間がかかる場合も考えられます。
★革新軽水炉
従来の大型軽水炉をベースに、安全機能をより強化した軽水炉です。これまでも、事故発生時には安全システムが作動し、安全が保たれるよう設計されてきました。しかし、福島第一原子力発電所(1F)事故は、全ての電源を長時間喪失し、冷却機能や放射性物質を閉じ込める機能を失ったために発生しました。そのため1F事故後に既存の原子力発電所では、従来の安全システムに加え、多様多重の電源対策や注水対策をしました。また、放射性物質を外部に放出するような事故でもその影響を大幅に軽減するフィルタベントを導入しました。
革新軽水炉では、地震や津波などで電源が喪失した場合を想定し、パッシブ安全システム(電源やポンプがなくても、自然の重力、自然対流などで原子炉を冷却し安全を確保できる設備)を設けています。それでも、炉心溶融が起きて圧力容器の底が溶け、核燃料が下に落ちる場合も想定して、それを受け止めるコアキャッチャーを装備する設計にしています。その他にも、耐震性、津波耐性、テロ対策等への安全性も高めています。国内企業の具体的な開発としては、三菱重工業が開発を進めている革新軽水炉はPWR、日立GEと東芝ESSの革新軽水炉はBWRです。原子炉の炉心から発生する熱は、制御棒が入った後でもゼロにはならずに少し発生し続けるため、その熱を水で継続して冷やさなければなりません。パッシブ安全システムでは、冷却用のプールにつながる配管の弁を開け、炉心の崩壊熱で発生する蒸気をそのプールを通過する配管の中で凝縮させ、冷やされた水を再び炉心に戻して冷やし続ける仕組みになっています。
★SMR(小型モジュール炉)
既存炉と比べ小型の原子炉で、出力は大型炉の約1/4、300MW以下のものをSMRと呼んでいます。
利点としては、工場で大部分の設備を組み立ててから運ぶため工期が短縮され、コストも抑えられます。また小型炉を複数並べて利用すれば大型と同等の発電ができるパワーモジュールになります。炉心が小さく、仮に事故が起きてもリスクは低減されます。実は小さな原子炉は昔から開発されています。船のエンジンとして原子力船の動力に使われたのがその用途の一つです。日本でもかつて原子力船「むつ」が建設され1969年に進水しました。放射線漏洩防止の改修工事がされ、1990年代に地球2周分の実験航海後、船体から原子炉は撤去されました。
SMRには陸上用、海上用、高温ガス炉など、様々なタイプなどがあります。陸上用の例としてアメリカのNuScaleは審査が進んでおり、特徴は今までのPWRの蒸気発生器、格納容器までがコンパクトに一体型のモジュールになっています。この一つのモジュールを大きなプールの中に12基沈めて使い、事故時でもポンプ、外部電源、注水なしで冷却可能にする構造です。また再エネの増加に合わせ、電気を使う量とつくる量のバランスを細かく調整するのに適した発電ができると言われています。
日本の日立とGEが共同で開発・展開しているBWRX-300も注目されており、カナダで初号基の建設が始まり、2030年の運転開始を目指しているほか、アメリカや欧州でも導入に向けた動きがあります。特徴は、これまで電源とポンプで注水していた非常用炉心冷却システムの替わりに、非常用復水器というパッシブ安全システム(炉心で発生した蒸気を熱交換器で冷やし戻ってきた水を再び炉心の冷却に使う自然循環で、炉心の冷却と圧力の低下を達成する仕組み)で構成されていることです。また燃料はこれまでの商業軽水炉と同じものが使えるため、経済性も注目されています。
世界でSMRの商業運転をすでに開始している国は、現状はロシアだけです。それは陸上ではなく洋上で稼働するSMRです。一つは原子力砕氷船で、北極海を砕氷して物資を運ぶために使われています。もう一つは浮体式原子炉で、船で曳航し海岸沿いの港に停泊して発電します。極東シベリアのペヴェクで主に鉱山の電源として使われています。約12年に一度の定期検査の際にはムルマンスクに曳航しメンテナンスをして、またペヴェクに戻り発電を再開します。ロシアは現在さらに4基の浮体式原子炉を建造中です。
一方、アメリカでは内陸・沿岸利用に加え、沖合で稼働する原子炉の開発も行っています。マサチューセッツ工科大学(MIT)は、石油や天然ガスの採掘のために沖合で使う浮体式リグの仕組みを活用し、既存の原子炉をそのまま載せて使う浮体式原子力発電所を提唱し開発しています。沖合30kmでの稼働を想定しているため、住民の避難はほとんど不要になり、また地震、津波、火山などへの耐性が強く、仮に事故が起きたとしても周辺の豊富な海水で炉心を冷却できるので、炉心溶融事故のリスクを極めて低くできると考えられています。
★高温ガス炉
冷却材として水ではなくヘリウムガスを炉心に流入し、そのガスを高温に加熱する構造になっています。水を使った原子炉は300°C程度の蒸気しか出ませんが、高温でヘリウムガスを循環させると、950°Cの熱を取り出すことができます。燃料は耐熱性の高いセラミック材で被覆し、高温でも安全に運転できる設計になっており、高温熱は発電のみならず、鉄を製造する高炉の熱源としても使え、また水素の製造にも活用できるように研究が進められています。
★高速炉
冷却材に水ではなくナトリウムなどの液体金属を使い、高速の中性子で炉心を臨界にする原子炉です。
ナトリウムを使うと、そこを通過する中性子のスピードが落ちにくく、原子燃料の増殖に利用することができます。原子炉の中にある燃料の核分裂によって発生した熱は、1次系ナトリウムにより中間熱交換器に送られ、中間熱交換器では、2次系ナトリウムに熱を伝えて蒸気発生器に送られます。そして蒸気発生器の中では、細管の中を流れる水を熱して蒸気を作ります。この蒸気でタービンを回す仕組みです。
軽水炉で使用された燃料の中には再利用できるウランやプルトニウムが含まれており、これを回収し次の燃料として使えるようにリサイクルすることが、原子燃料サイクルです。高速炉は使用済燃料の再利用とともに、高レベル放射性廃棄物の減容に効果があります。日本の原子力発電の歴史において、1950年代から資源有効活用のため燃料の増殖を目的にした高速増殖炉の開発を目指してきました。ところが1994年に運転開始した「もんじゅ」がナトリウム漏れ事故などのトラブルがあり、22年間で実質250日間の稼働で廃炉になりました。次世代高速炉では、現在の原子力安全の考え方や法令の要求事項等を踏まえ、パッシブ安全システムを多重に設置することに加え、強制循環冷却で炉心を冷やす追加のポンプも設置する形で、安全システムを強化する開発が進められています。
★核融合炉
ウランやプルトニウムをもとにした核分裂反応ではなく、重水素とトリチウムを使う核融合反応から熱を得る原子炉です。
通常、水素の原子核は陽子が1つ、重水素はそれに中性子が1個ついたもの、トリチウムは中性子2個が陽子についたものです。トリチウムは福島の処理水の海洋放出で話題になりましたが、半減期は12年であり、崩壊して非放射性の安定したヘリウムになります。自然界にも私たちの体内の水にもごく少量ですが一定量の重水素とトリチウムは含まれています。重水素とトリチウムを高温の炉内で核融合させると、高速の中性子とヘリウム原子核が発生し、ヘリウムはプラズマ(電子や原子核がバラバラに動いている状態)の中にとどまりプラズマを加熱します。一方、中性子はプラズマから飛び出してプラズマを覆う壁(ブランケット)に衝突します。その結果、中性子の運動エネルギーが熱に変換され、その熱を使って蒸気を作りタービンを回して発電します。フランスでは国際核融合実験炉ITERの建設が進んでいます。核融合炉は、発生するエネルギーから電気出力への変換の効率が15%程度のため、発電へのエネルギー効率の向上が課題です。また核融合は連続運転の達成や、高エネルギーの中性子が衝突する炉壁の耐久性の確保など、解決すべき重要な課題があります。
日本における電力の安定供給を図るには、国土が狭くエネルギー資源も乏しく、しかも隣国との電力網がないという地理的条件を考えなければいけません。そのため、さまざまな発電方法や蓄電方法などを組合せて利用しているのが現状です。さらに日本は地球温暖化防止のため2050年のカーボンニュートラルを目標に掲げています。日本では年に10億トンのCO2を排出しています。そのうち4割が発電によるものであり、石油、LNG、石炭による火力発電に起因しています。CO2を排出しない電源の割合を高めてきていますが、太陽光や風力などの再エネ電源は天候により発電出力が大きく変化します。停電しないように使っている電力とつくっている電力のバランスをとるには、無風や曇天時や夜間に再エネの発電量がゼロになる状態を補う別の発電方法が不可欠です。現在は火力発電がその役割を果たしています。再エネによる発電の比率がさらに増えてくると、大型水力発電や大型蓄電設備によって、再エネ電源の発電量が減った際の不足分をすべて補うことは困難です。そのため、再エネ発電と同じ発電量の火力発電を常時スタンバイしておく必要があります。一方、電力の安定供給の能力が高くCO2の排出もない原子力発電は、ベース電源としての従来の役割に加え、再エネの変動分を補う活用も考えられています。
今後は、継続的に安全性を向上しながら既存の大型原子炉を活用するとともに、安定供給ができ安全性を更に向上する次世代革新炉を導入できるように、課題を解決しながら開発を進めていくことが現実的な解になると考えています。今日お話しした中で、小型モジュール炉を日本で導入を進めるには、小型モジュール炉の新たな設計の採用を可能とする法令の整備も必要です。海外で審査や導入が進んでいく中で適した法令や国際標準が整備されたら、それを参考にすることも良いと思います。また高速炉や核融合炉による発電は、2050年カーボンニュートラルの電源としては間に合わないとしても、100年先の利用を見据えた研究と開発が必要だと考えています。
講演後にグループディスカッションで意見交換を行った後、感想も交えながら宇井氏との質疑応答を行いました。
「人口減少が止まらない地域に合わせた小型の原子力発電をもっと作った方がいいのでは」という問いに対し、「送電網がそれほど大きくない地域や離島などは小型炉という選択肢もあると思う。また、小型炉で特定の地域の電力を賄えるとしても、陸地の立地場所の制約もあり、日本全体ではやはり大型炉も増やさないと電力不足になる。2050年代末には再稼働した原子炉も廃炉になり、8基しか残らない。第7次エネルギー基本計画に記載されているように日本の電力の2割を今後も原子力発電で賄おうとするなら、2050年代末までに革新軽水炉12基分の導入が必要」と答えられました。
「次世代革新炉を研究開発しても、結果として費用対効果はどうなるのか。消費者に転嫁されることはないのか」については、「原子力発電に関わる技術と製造力を継続し、コンスタントに作り続ければコストは安くなるから、サプライチェーンの維持が大切だ。電力小売全面自由化の中、次世代革新炉の導入は、事業者にて競争力確保等の観点を踏まえて検討し、判断していくことになると考える」と答えました。
「洋上原子力は海に囲まれた日本に適していると思うが、なぜ計画が進まないのか。また浮体式でも安全は確保されるのか」に対しては、「日本の法令では原子力発電は硬い岩盤上に作ることになっていて海上で発電する法令の準備がまだできていない。研究者は、海上の場合、揺れ動く状態や、もし事故が起きて沈没したり転覆したらどうなるかも設計段階で考えており、シミュレーションでも確認している」と答えられ、「次世代炉も含め、電気やエネルギーに関する情報があまり伝わってこないので、新技術が展開しても国民の理解が遅れ合意が取り付けられないのではないか」との問いかけには、「これからの若い世代に向けての情報発信や技術に関する人材育成も進めていきたい」と答えられました。
(一財)電力中央研究所 副研究参事 エネルギートランスフォーメーション研究本部研究統括室 研究戦略担当(次期原子炉) 兼 原子力リスク研究センター
専門は原子炉熱流動・安全、確率論的リスク評価(PRA)。原子燃料メーカーにて発電用軽水炉の安全設計・安全評価等に従事後、(独)原子力安全基盤機構において事故シミュレーション技術の高度化、安全課題の解決に係る研究、新設炉の審査のレビューなどを実施。東電福島事故後は日本国政府報告書作成統括チームにてIAEA向け政府報告書の作成や編纂に従事。その後、国内の原子炉の安全性向上と再稼働の支援のため、電力中央研究所にて地震・津波PRAや原子炉熱流動の挙動解明に関わる実験を推進。現在は、次世代革新炉の研究戦略の立案、浮体式原子力発電の成立性に係る実験と解析、AI技術を活用したPRA手法の高度化、受動的安全システムの性能信頼性評価手法の構築等に従事。OECD/NEAのWGAMAおよびWGFS委員。博士(工学)。