
「何のために生まれて、何をして生きるのか」ご存じ、やなせたかし氏の「アンパンマンのマーチ」の歌詞の冒頭である。「何のために生まれたか」と問われると、何か人生においてこれというものを成し遂げなければならないかと思ってしまうが、私は違う。私の考えはシンプルにただ一つ、人は「
私は40年近く、小学校教育に携わってきた。私の住んでいた家は、福島第一原子力発電所から9.7kmに位置し、東日本大震災に伴う原発事故により、居住できない区域となった。震災当時に福島にいて原発事故の被災者となった子どもたちに、私たち教員は何ができるのか考えさせられた。
放射線教育では、放射能や放射線について正しく知り、正しく怖がることを指導した。これからの人生で放射能の影響がある地域で育った子としてエビデンスのない偏見にさらされた時、正しく説明し、自分を守り、大切にできる人間になるように。環境教育では、SDGs(持続可能な社会作りの目標)を、エネルギー教育では、再生可能なエネルギーや新しい開発について学習した。また、子どもたちが被災地となった自分のふるさとを知り、愛することができるよう「ふるさと創造学サミット」を開催している。もちろん、教育の根幹である学力の向上を目指し、これからを生き抜く力を育成してきた。教育は、子どもたちの幸せを実現するための基礎となる力だと信じているから。
現在は避難が解除されても戻らぬ人が多く、被災地は荒廃している。この状況は、10年後、20年後の日本の各地方の姿である。少子高齢化、人口の都市集中、地方の過疎化と衰退、そのような中で、私たちや次の世代のウェルビーイングのために何が必要なのか。福島県は今、元に戻すのではなく、新しい町を創造する復興が進められている。福島県南相馬市では、水素燃料電池発電所を開設し、カーボンニュートラル実現と災害に強い町づくりを進めている。また自民党総裁選でコバホーク(小林鷹之氏)が語ったように、福島ロボットテストフィールドは、陸海空のフィールドロボットの研究開発・実証実験・性能評価などを行う世界に類を見ない一大研究開発拠点となっている。JAEA楢葉遠隔操作機器の技術開発やモックアップ試験が行われているし、浪江町には、福島国際研究機構(F-REI)が日本の科学技術力や産業競争力の強化を牽引するために国によって設立され、世界中から研究者が集まると言われている。
私たちが求める「幸せ」は誰かの犠牲の上に成り立つものではない。エネルギー開発には安全性が最も重視されなければならない。福島原子力発電所が安全でなかったという負の事実は、原発立地地区の住民である私たちにとってつらくて悲しいことである。エネルギー開発がこれからの世代の「幸せ」を叶えるものであってほしいと心から願っている。
(2025年10月)