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アンティークのウランガラスを使うのは危険?時間の多様性とエネルギー消費

出光一哉氏 kazuya idemitsu
東北大学金属材料研究所特任教授

先日(令和7年6月4日)の朝のニュースを見ていたらウランガラスの紹介をしていた。昔、ヨーロッパでブームがあり、特にチェコ製のアンティークが有名である。ウランを少量(重量で0.1%程度)含み、紫外線を当てると黄緑色の蛍光を発し、大変美しい。太陽光にかざすことでも色の変化を楽しむこともできる。件のニュースでは、美しく輝くことを紹介していた。日本でも製造販売しているところがあるので、そこが紹介されるかと思っていたが、何の紹介もなく残念に思っていた。
問題はここからで、ニュースの最後に、「専門家によれば、少量とは言え放射能を含むので、健康のためには実際に飲料用グラスとして利用しない方が良い。」と締め括った。
はあ????である。どこの専門家?健康のためには使わない方が良い?天下の放送局が科学的根拠も示さず、印象操作をしているのか。非常に残念に感じた。

ここで、事実確認(ファクトチェック)をしておこう。

□️ウラン=放射能(放射性物質)→ はい。
 ウラン238は半減期45億年、ウラン235は同7.2億年のアルファ線を出す物質
□️ウランの体内摂取は健康被害を起こすか?→ 摂取量に依存する。
 許容濃度は0.02 Bq/cc(約1ppm*) *ppm:100万分の1(重量)
□️ウランガラスからグラス中の液体へ溶解したウランを摂取するのは危険か?→ほぼ危険はない

根拠を示しておこう。ウランガラスではなく全てウラン酸化物(UO2)でグラスを作ったとしよう。
液体とコップの接触面積は約100cm2程度(10cm角)として、ウランの溶解速度は1時間あたり45ng**以下(希硝酸に対して常温の場合)、塩水に対してであればこの100分の1程度である。

**ng(ナノグラム 10億分の1グラム)

入れている液の容量を100cc程度とすれば、濃度は0.45ng/cc(0.00045 ppm)となる。
全部ウランのグラスを使うことも希硝酸を飲むことも無いであろうが、0.1%(千分の1)しかウランが入っていないウランガラスから溶け出すウランの量はこれよりも遥かに少ない。ちなみに、海水中にもウランは入っており、その濃度は0.003ppmである。私は海水へのウランの溶解速度の測定をしたことがあるが、実際の海水を使って試験することができない。海水に元々含まれるウランよりも遥かに少ない量しか溶け出さないからである。海水浴で間違って海水を飲んだ人は多いと思う。そのため放射線障害に遭う可能性は無い。
ましてや、である。この放送にあたってきちんと専門家に意見を伺ったのだろうか?
ほぼ危険はない」と書いたが、「ほぼ」を付けたのは、ウランガラスが綺麗で雰囲気良くついお酒を呑みすぎてしまう危険があるからである。

(2025年6月)

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