2024年度の(一財)省エネルギーセンターの省エネルギー大賞の審査委員会特別賞に、電力中央研究所の上野剛氏と安岡絢子氏らが開発した「住宅用エアコン選定支援ツール」が選ばれました。私も昔から気になってしょうがなかった課題に対して果敢に挑戦し、開発されたツールです。
皆さんも気にかかっていたのではないかと思いますが、住宅用エアコンのサイズ選択に当たって「何畳用」と記されているのをご覧になったことがあると思います。集合住宅などではほとんど畳の部屋すら消えかかっているのに対し、この「何畳用」相当という指標がどの程度理解されているのか不思議に思っていました。
エアコンの適正な容量の決定には、当該地域の気候条件、住宅の保温構造条件・部屋の位置、使い方のモードなどを考慮すべきですが、店頭に表示された「何畳用」という漠とした表示では、これらはほとんど考慮されていないようです。一般的に大型ビル等にあっても空調設備選択は安全側として大きめの容量のものが設置されることがほとんどです。いわんやエンジニアリングなどほとんどされていない住宅にあっては部屋の最適冷暖房負荷に応じた機種選定などほとんど顧みられることすらないのが現状でしょう。通常の考え方では「大は小を兼ねる」とする選択が一般的で、過大な容量であっても出力を落として稼働させれば過剰なエネルギー消費は抑えられる、といった理解だったのでしょう。しかしエアコンの場合は必ずしもこうは行きません。過大な容量の選定をしてしまうと低負荷、すなわち冷暖房に必要なエネルギー需要が小さな時期や時間帯ではかえってエネルギー消費効率が大きく低下してしまうというエアコン独特の問題があります。昔の「何畳用」という選択時の基準ではなんと1964年当時の住宅断熱基準で容量計算がされていたというのですから驚きです。でも当時のエアコンは現在のようにインバータ式ではなかったので低負荷時に大きく効率が低下すといったことは無く、まだ「大は小を兼ねる」といったことが通じていたのかもしれませんね。
開発者らはエアコンの利用方法等に関するWeb調査の結果などをもとに、住まい方、エアコン機種をパラメータとして、室温やエアコン消費電力などをシミュレートしデータベースを構築しています。これに消費者の選好の重視度合いを考慮したエアコン選定の手法などを開発し、支援ツールを開発しています。
結論として「支援ツールで選定した場合」の「畳数目安で選定した場合」に対する消費電力の削減率は、平均で畳数目安よりもツールの方が平均値で16.2%の削減効果が得られたそうです。これを家庭部門のエアコンによる消費電力削減量に置き換えると、なんと3,017GWh/yにもなるそうです。
[参考文献]
①安岡絢子、上野剛、宮永俊之: 「多様な住まい方を考慮した家庭用エアコン選定支援ツールの提案-その1 プロトタイプの構築と省エネポテンシャルの試算-」 空気調和・衛生工学会論文集 No.230 pp.27-36 (2016)
②安岡絢子、上野剛、宮永俊之: 「多様な住まい方を考慮した家庭用エアコン選定支援ツールの提案 第2報―生活者の選好を考慮可能なツールの構築」 空気調和・衛生工学会論文集 No.246 pp.22-29 (2017)
(2025年4月)