2月にGX2040ビジョン、エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画が閣議決定し、GHG削減目標は極めて野心的だ。現行の2030年度目標である13年度比46%減を単純に50年度の実質ゼロまで直線外挿し、35年度で同60%減、40年度には同73%減となる。政府は、GX戦略で産業構造を脱炭素型に転換し国際競争力を高めるという。
本当にそうなるだろうか。世界の国々は、脱炭素化の産業構造を目指している状況にはない。米国はトランプ大統領就任後にパリ協定から離脱し、天然ガスなどの化石燃料を採掘する企業を支援している。世界最大の排出国である中国も国益重視の政策によって、温暖化対策は相変わらず自らを途上国扱いにし、GHG排出量は今後も増加すると予測される。途上国が多い東南アジアやインド、アフリカ、南米の国々も経済発展を優先し、2050年にCNになる見通しはない。温暖化防止は長期的に重要ではあるが、世界には貧困や紛争など深刻な問題が山積している。
こういった国際状況の中で、日本だけ孤軍奮闘しても世界は変わらない。欧州や日本の世界全体で見たGHG排出量は一割弱である。世界市場として発展できる技術の見極めが大切になる。グリーンエネルギーを利用する革新的技術は、現状では技術的かつ経済的にリスクが大きすぎる。政府は、GI基金やGX経済移行債を呼び水に排出量取引によって民間主導の実用化を進める計画だが、排出量が多い産業は、エネルギー・電力と素材産業である。それらの企業の生産活動量はマイナスか低迷しており、グリーンエネルギーを独自の資金で実用化する余力はない。
大量生産を改め無駄を無くす産業構造を世界的に構築できれば良いが、規模の経済でコスト低減が図れる資本主義の経済システムを変えることは容易ではない。節約にも限界がある。生活に必要なものを最小限に保有し、物をできるだけ長く使う「モッタイナイ」精神に、消費者意識が戻れば良いが、企業は寿命の短い新製品を絶えず世に送り出し消費者の購買意欲を促している。リサイクルやリユース製品を使うようにすれば良いが、孫にはつい新品を買ってしまう。仕事はオンラインで実施し、余暇は旅行を控え身近な場所でのウォーキングにすれば交通機関のエネルギー消費は抑えられる。しかし、旅行客が途絶えては地域経済が疲弊してしまう。
GX戦略は、地に足がつく対策で進めるべきだ。化石燃料やエネルギー消費を減らす省エネ技術であるトップランナー製品の海外輸出と運用時の省エネを図るベンチマーク制度の国内外への展開が望まれる。また、ペロブスカイト電池のような立地条件に柔軟に設置できる太陽光発電を、AIを使って気象変化とトップランナー製品の運用パターンを制御管理する日本独自の技術は、国内外で省エネと再エネの普及に役立つ。産業部門でも経済的に利用可能な最善技術(BAT)を国内だけでなく海外へ積極的に普及すべきである。
(2025年3月)